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特集・当事者の仕事(2/2)
〜飲食店経営・自営業〜人生の選択、決断と思い〜

今回取材に応じてくださったのは、大阪府阿倍野区の発達障害カフェバーDDbugsオーナー
森 恵史さんです。


店作りでこだわった部分はどんなところですか?

薄暗い灯りで、蝋燭みたいな感じの灯りの中で、みんな横並びに座って色々喋れるようにする事ですかね。
バーのカウンターの中もステージに近い雰囲気にしたかったんです。
だから、照明にはすごくこだわりましたし、その分お金もかかってしまいました。

あと、僕はステージに立っていた男だし、いろんな人の顔色なんかを見ながら接客するのが向いているのではないかなと思っていたんです。
人と話をして、ステージのように自分とお客さんが向き合う。
自分が中心となってその場所の空気を作っていくことが自分にはできるのではないかと思い、カウンターだけの店にしたというのもあります。

でも、隣同士で座るのが苦手な人も多いから、客席に座るお客さん同士の間が空いてしまうことも多くて。
それは少しもったいなく感じていますが、どんどん店の席を詰まらせて、お客さん同士の距離を近づけ、それでも安心して居てられるような場所になってほしいと思っています。
そんな店づくりこそが、店の中心にいる自分の仕事だと思っています。

DDbugsをオープンするにあたり、苦労したことは?

うーん、やっぱり資金繰りですね。
最初、融資をお願いしに行ったのですが、それがおりなかったんです。
それで、仕方がないので父親からお金を借りることになってしまったんですよね。
そのせいで工事が遅れてしまったり、夏場の熱中症対策もしないといけないのに、エアコンの設置が進まなかったり、とにかく資金繰りがうまくいかなかった。
色々なことが遅れてしまって大変でした。

ですが、その頃参加した発達障害の当事者が集まるコミニュティの仲間が励ましてくれ、挫けず頑張る勇気を持つことができたんです。
改めて自分の気持ちや悩みを共有できる仲間の存在がいることの重要性や、有り難さを認識でき、お店を開くことに対する気持ちがより強くなりましたね。

あとは、メニューをどうしたらいいのかについてです。
メニューが増えてしまうと動線が多くなってしまって、カウンターだけの店では機材などを置く場所も足りないし、作業の手も足りない。
ひとりではどうしても同時に捌ききれないんです。
試食会をしましたが、やっぱりメニューを充実させると一人では忙しすぎました。
お酒を出して、料理もしてお客さんとも話す、なんて正直無理だと思いました。

以前やっていたダイニングバーは仲間とやっていたので、一人でする事がここまで大変だとは思いもよりませんでした。

なので、結局やりたかったメニューは結構あったのですが、大幅に減らすことになってしまいましたね。
もっとみんなに提供して、食べてもらいたいものがあったのですが…。

発達障害バーには、お酒が飲めないとか、普段飲み屋に行かないような人も来ます。
なので、料理の注文ばかり出て、お酒があまり出ないような日も多いです。
そうじゃない日ももちろんあるのですが、料理だけ食べに来るような人も多いんですよね。
これは想定外でした。

お店をやって良かったと思った事はありますか?

やっぱり、自分と同じような精神疾患や発達障害を抱えた人と接する機会が増えたことでしょうか。
コミニュケーションが苦手な人と話しても、お互いに苦手だということが前提としてわかった状態で話すことができるじゃないですか。
コミュニケーションに対する辛さのようなものを感じずに過ごすことができるのが本当によかったです。
お客さんが喋ってくれて、お互いを理解しながら他愛のない話を出来ている時、感動を覚えたりしています。
お客さんも同じように感じていると思います。

自分自身と向き合っている人たちが一緒になると、相乗効果が起こるんです。
お互いを認識しあって、色々なことを前向きに考えられるんです。
お互いのことを話しても、そもそも発達障害の人たちが集まる場所なので、「自分はこういう特性なんです」と自己紹介しあったりすることがすぐに出来るので、話の流れがスムーズなんですよ。
「あるある話」なんかで盛り上がったりして。
そんな時「お店を作って良かったなぁ」と安心します。

あと、自分がお手洗いに行っている時とかも、店内からお客さん同士の会話の声が聞こえてくると嬉しいですよ。
普段自分を隠したり、話したい事を我慢して息苦しい気持ちで生活をしている人が、人の目を気にしたり、振る舞い方を気にせず過ごすことができているんじゃないかと思って。

僕は着火剤のようなものでいいんです。
あとは自然にお客さん同士が安心して、仲間として過ごせるような場所にどんどんなっていってくれるんじゃないか、と思うんです。

僕はいつも店にいるので、店に来たらいつでも話せますよね。
だから僕に会いにきてくれるのも嬉しいですが、それ以上にお客さんがお店にきてみて欲しいです。
そこでたまたまお客さん同士が知り合って、話しをして仲良くなったり、気の合う仲間を見つけることができるのは、本望なんですよね。
僕がいなくても、この場所さえあればいい。それが理想です。

今後の目標を教えてください。

お店は皆さんのおかげで成り立っていると思っています。
皆がここに集まってくれて、ここで話したり楽しく盛り上がったりしてくれていれば、それだけでお店が存続していくことが可能だと思うんです。

まだ始まったばかりなので、やっぱりそこが何よりの目標です。
続かないと何を語っても始まらないですから。
そのために皆に来てもらえる場所になるように色々考えて頑張っていきたいです。

仲間と集まった時に、この空間について思い出してほしい。発達障害バーという前提があるから、安心して話せる場所なので。

つまり…、お店の存続には売上があってこそナンボなので、この場所を維持する為にお店に来て欲しいって事です(笑)
よろしくお願いします!

読者に伝えたいことはありますか?

僕は自分の気持ちをしっかりと吐き出して、それと同時に人の意見も聞き入れ、自分の気がつかなかったことに気が付くこと。それが大事だと思います。
そういう過程があるから、振り返って「ここが良くなかったかも」とか、「ここが良い言い方じゃなかったかも」とか、自分のことを客観的に見て、気づくことが出来るんですよね。

それが今後の自分や環境をよくしていくきっかけになります。
幸せはどこにあるのか、今の自分が幸せなのかどうか、見つめてほしいです。
たとえ悩んでいる時でも、捉え方や考え方次第で幸せになれるんですよね。
今の取材に関しても、僕は前向きに考えて話しています。

今の瞬間を「面倒だ、辛い」と思えば「辛い」ものになるし、「何か前に進んでいて、楽しい」と考えれば、「楽しい」ことになるんです。
どんな瞬間でも、自分次第でいくらでも幸せになれるものだと思います。
何か悩んでいる事があれば、お店にふらっと立ち寄ってみてください。僕も一緒に考えます。

凸凹といろ。創刊についてコメントをください!

自分から何かを発信するのが本当に苦手でなので、自分の話や伝えたいことをまとめてくれるだけでもありがたいです。
それに、僕が店をオープンすることがきっかけでこのフリーペーパーの企画が発足したこと、とても光栄で、喜ばしいし、ありがたいです。

皆が自主的に行動を起こすことで何かが起こるんじゃないか、頑張っている仲間として、見守りたいし、見守られたい。

お互い支え合えるような仲間になっていきたいです。

この記事は役に立ちましたか?

『凸凹といろ。』のもうひとつのかたち。
原点である紙のフリーペーパーも、ぜひ手に取ってみてください。

凸凹といろ。編集部

これまで紙でお届けしてきた記事は、すべて「凸凹といろ。編集部」として掲載しています。 Webでも引き続き、編集部一同で大切に紡いできたストーリーをお楽しみください。

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